つくる側と受ける側のルール
武井武雄と刊本作品友の会

  文学館の2002年は「武井武雄刊本作品の世界 その弐」の開催から始まります。
 武井武雄と刊本作品については以前本欄で紹介しました。童画の生みの親であり、同時に版画家でもあった武井がそのライフワークとして、あらゆる素材と技法を駆使し、精魂を傾けて制作した刊本作品。そこには、常に新しい美術、というより芸術を追究する武井武雄の執念ともいうべきものが感じられます。
 ところで、この刊本作品は制作数が原則として300部(制作技法によっては600部)に限定され、手にすることができたのは「親類」と呼ばれる「刊本作品友の会」会員だけでした。しかも制作実費のみで頒布されました。これは、美的価値の究極的な追求は量産では決して望み得ない、という武井の芸術的良心の現れであり、また、「私の子供とも云うべきこの本をむざむざ知らない人の手に委ねられようか」と述べているように、生れた作品に対する深い愛情の現れでありましょう。
 一方、作者の入魂の作品を手にするために、友の会にもさまざまな決まりがありました。例えば、頒布申込期日を厳守する、刊本作品を譲渡してはならない、などです。これらの決まりを破ると、会員の資格を失い「我慢会」から並び直しでした。友の会へは欠番が出なければ入会できず、入会を待っている人たちは「我慢会」と呼ばれました。
 今回の展示も、ご夫婦そろって友の会の会員であった永井路子先生所蔵の資料を中心にご紹介します。永井先生の場合に限らず、刊本作品がほとんど散逸することなく今日に残され、私たちがその造本技術の粋を尽くした作品を目にすることができるのは、こうした厳しくも心温まる愛書家同士のルールが定められていたおかげにほかなりません。

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