「明治40年4月、広大な遊水地に変わる運命にある谷中村では、今なお土地収用に反対する十数戸の残留農民がいた。反対派の一人に会いに来た地元紙の記者は、水塚の土蔵の中から断末魔のうめき声を聞く。『正造先生に殺られた・・・・』」
昭和49年の江戸川乱歩賞を受賞した「暗黒告知」の導入部分を要約させていただきましたが、本作品は、足尾鉱毒事件で有名な田中正造を登場させ、本格的な謎解きに強烈な社会性を加味した歴史推理小説の秀作です。 密室殺人、指紋捜査等、本格推理の醍醐味を味わえるだけでなく、スパイ・スリラ−としても一級の作品と言えるでしょう。
本作品を、執筆した小林久三先生は、昭和9年に古河市に生まれました。古河一高、東北大学文学部を卒業後、松竹の大船撮影所に助監督として入社、のちにプロデュ−サ−になります。 昭和44年より推理評論を『推理界』に連載、翌年同誌に中編「零号試写室」を発表。昭和47年に冬木鋭介名の『腐蝕色彩』で小説サンデ−毎日新人賞を、昭和49年には、『暗黒告知』で江戸川乱歩賞を受賞し本格的な作家生活に入りました。 昭和56年には、『父と子の炎』で第8回角川小説賞を受賞。初期の頃は映画界を舞台とした作品を多く発表していましたが、その後、自衛隊のク−デタ−計画を取り上げた『皇帝のいない八月』(松竹で映画化、監督山本蔭夫、主演渡瀬恒彦、吉永小百合)など社会性のある題材にも取り組み、また、サスペンス・ミステリ−や企業小説等の分野でも活躍しています。 近年は、『竜馬暗殺』『秀吉・信長・家康天下統一の闇史』など歴史のミステリ−に迫った作品を多く手掛けています。
●資料ご提供のお願い 文学館では、小林久三先生の資料(絶版となった作品等)を収集しています。資料をお持ちの方は、ぜひご連絡ください。(写真は矢木隆一氏提供)