「1月14日になると、新久田の田んぼのあぜで、狐が指のあいだに豆の葉をはさんで踊るんだ」。
今から15年ほど前、中田新田のあるおばあさんが、こんなことを語って聞かせてくれました。とても豆の葉なんか、はさめそうもない短い狐の指のかたちと、そのしぐさを想像すると、たいへんおかしいと感じたものでした。それにもまして、どうして1月14日に狐が踊るのか、そしてなぜ、豆の葉を指のあいだにはさむ必要があるのかという疑問が頭をかけめぐったのです。
そんな謎を解き明かしてくれそうな気がしたのは、茨城町生井沢に伝わる次のような話でした。
むかし、猫を大変かわいがっていたある旧家の主人が、親戚のところへ用足しに行った。すっかり暗くなってしまった帰り道、雑木林からにぎやかなお囃子が聞こえてきた。主人がのぞいてみると、猫が20匹ほど集まっている。そのうちの1匹が主人の飼い猫で、主人にむかっていうことには「今夜は二十三夜尊の祭なので、家で小豆粥を食べさせられた。そのために、やけどしてしまい笛がうまく吹けない」と。その晩を最後に猫は帰ってこなかった。それ以来「猫に小豆粥を食べさせると化けて出る」というようになったという
(『茨城町史 地誌編』)。
一見なんのつながりも無いようですが「小豆粥を食べた猫が音曲を楽しむ」ようすが「豆の葉を指にはさんだ狐が踊る」ことに重なってみえるのです。
一般に1月14日には、田畑の豊作を願い、小豆粥をつくって神仏に捧げる習慣が各地にありました。また、豆は節分の豆まきにみられるように、邪悪なものを取り除く力があると信じられていたのです。このような秘められた力を持つ豆(小豆粥)が、動物たちに不思議な行動をさせるのでしょうか。
古河歴史博物館 学芸員 立石尚之 |