科学者、画家、歌人、政治家、そしてデザイナー・・・今様にいうマルチな文化人−土井利位。小欄でも、利位について、江戸幕府政治における手腕、『雪華図説』の著者であること等々、いくたびか紹介してきました。
現在、当館では「雪の殿さま 土井利位」なる企画展を開催しています。日本の自然科学史上、その礎としてたかい評価を受けている土井利位の『雪華図説』を中心にした展示であることを言うまでもありません。
さて、利位は、日本における科学発展に大きく寄与したことのみならず、こんにち私たちにたいそう馴染みある意匠を提供したといういう点でも功績をあげました。すなわち、雪のかたち=雪華模様を、一般化するきっかけをつくった人物こそ、この利位にほかなりません。彼の雪華は、文様として忽ち公家・大名をはじめ、江戸庶民に受容されていきました。江戸後期の職人たちは、漆芸・染色・金工品・錦絵などの意匠として、競って雪華模様を取り入れます。ごく一部を紹介すれば、教科書にも登場する幕末の老中、安藤信正の愛用した硯箱、江戸期屈指の蒔絵師原羊遊斎の製作した印籠、土井家伝来の雪華模様を散らした訪問着・羽織、デザインとして雪華のちりばめられた錦絵など。いずれも現在当館で展示しています。
ところで、この”マルチ”な才能を発揮した利位の秘密をかいま見る和歌がありますので、最後に紹介しておきましょう。ここに、利位の好奇心や探求心というべきものを読みとることができるように思われてなりません。「下見ればわれにまさりしものもなし笠とりてみよ空の高さは」−下ばかり見ていても自分より勝っている者がいるわけないではないか。笠を取ってみあげてごらん。夢に向かって前進しよう。こんなにも空は高いのだから−
利位のこの指向性、多才な彼の原動力となっていたこの歌に勇気づけられるではありませんか。
(歴史博物館テーマ展は3月4日まで)
古河歴史博物館 学芸員 永用俊彦 |