五月節供の菖蒲の匂い
(悪い病にかからぬために)

 「五月節供に菖蒲を頭にまくと頭痛にならない」
 このような言い伝えは、古河に限らず、いまなお各地で聞くことができます。今月は5月ということもありますので、端午の節供についてここでふれてみようかと思います。
 ここに紹介した写真は、江戸時代に出版された、『増字新刻大福節用』という日用事典に描かれた、端午の節供の図です。武者飾りに幟が立てられていますが、その建物の屋根には、菖蒲の葉がさしてあるのが見えます。このように、この日、菖蒲を軒先にさすのは、かつてはよく見られた風景でした。
 古河においても数十年前までは、悪病除けのまじないとして、軒先に菖蒲とよもぎをさしていたといいます。その言われをいったものに次のような話があります。

 菖蒲を軒端になんであげるかっていうと、鬼が追っかけてきても、菖蒲の生えているところに逃げると、鬼は菖蒲の匂いがだいっきらいなんで、「おーくせえ、おーくせえ」つって入ってこられなかった。だから、菖蒲をお節供のときにあげて、鬼を追っ払うんだって。

 菖蒲の独特の匂いが、病気や災厄などの邪気を追い払うものと信じられていたのです。
 余談ですが、この日、古くは貴族たちのあいだでは、薬草を玉のように結び、これに五色の糸をたらしたものを作って、長寿を願ったといいます。ここで使われた薬草には、菖蒲が使われていました。この玉のことを「薬玉」といいます。そう、あのくす玉のもとです。 
目に見えない悪い霊力に対抗するためには、目に見えない力=「匂い」というものが、思いも寄らない力を発揮すると人々は信じていたのでしょう。

古河歴史博物館学芸員 立石尚之