獅子の力
流行する病から身を守るために

コレラ撤退に使われた獅子頭(市指定文化財) 安政5年(1858)8月のことです。全国にコレラが流行しました。この「はやり病」によって、江戸だけでも20数万もの人々が亡くなったといいます。
 岡本綺堂の『半七捕物帳』の「かむろ蛇」という時代小説にも、このコレラ流行のようすが描かれており、いずこの神社や寺院も参詣人が群集して、ひたすら神仏の救いを祈っていたとあります。古河藩に仕える家臣たちも「さむらい」とはいえ人の子、神仏に頼るほかはなかったようです。このころの雀神社(宮前町)の記録をひもといてみますと、城代家老土井内蔵允をはじめ176軒の古河藩士の家が、祈祷を受けているのがわかります。
 ところで、この年の9月の最終日、悪戸新田の獅子舞に使われる獅子頭が石町(中央町一丁目・二丁目)から雀神社に帰ってきました。その7日前、悪病(コレラ)が流行しているので、貸し出していたというのです。当時、江戸の町では、神輿がくり出し、獅子頭が引っ張りだされてコレラを町から追い出すためのコレラ祭なるものが行われました。古河でも、獅子頭の力によってコレラ退散を願ったのでしょう。悪戸新田獅子舞も本来は、悪疫流行の際に始まったといわれています。
 テレビに出てくるアクションヒーローたちは、仮面をかぶることによって、ふだんとは異なるパワーを持ち、悪者を次から次へと倒してゆきます。言いかえれば、あたまにかぶる仮面は人格までも変身させ、神に通ずる力を得ることができるというそうです。獅子頭が持つ底知れぬ力は、病さえも祓い清め、鎮めることができると信じられていたのでしょう。

古河歴史博物館学芸員 立石尚之