病の神から身をまもる方法
「病よ去れ!」の願いをこめて

  世にはびこる疫病は、病気の原因となるものが感染して広まるもので、はやり病ともいわれていました。本来、その原因とやらを病原体とよんで、ウィルスや細菌、原生動物などの微生物をこれに充てているのですが、そんな肉眼で確認できない話では、私たちの先祖は納得できません。なにか姿がないと不安だったのでしょう。疫病をもたらすとされるモノに、いくつかのイメージをいだいていたのです。そして人々は、そこに人間の形をした、病の神の存在を信じていました。
 例えば、ここに紹介した写真は、疱瘡(天然痘)という病の神(疱瘡神)が5人の連名で、あやまっている証文の一部です。もう疱瘡ははやらせません、どうかお許しください、疱瘡がはやったときの対処方法をお教えします、と。こんなことを疱瘡神が書いているというのですが、疱瘡神に筆でも持たせて書かせたというのでしょうか。もちろん、そんなことはありえません。本当は人間が書いたものです。さらに、よくよく観察してみると「疱瘡が流行したときに、(座敷の)鴨居にこの書付をはっておくとよい」とあります。
 神社やお寺のお札もそうですが、戸口に貼ったり、ムラの境に立てたりと、邪悪なものが侵入してきそうな場所に標示します。このように、文字に書き記すこともそうですが、呪文のように言葉に出してみたり、絵に表したりして見えるところに標示する。それが、思わぬ力を発揮し、よからぬ神々の悪だくみから、身を守ることにつながると考えられていたのです。

古河歴史博物館学芸員 立石尚之