文化財はもどらない       
失われた時を代償に…

 藪から棒に恐縮ですが、世界文化遺産にも登録された世界最古の木造建造物、法隆寺が、昭和24年1月26日、火災に遭っていること、また、先月26日が「文化財防火デー」であったということをご存じでしょうか。
 ご承知の向きもあるとは思いますが、いささかお付き合いください。
 法隆寺の火元は「金堂」の内部、ここには、当時すでに世界的な評価を受けていた十二面の壁画が安置されていました。
 すぐさま開始された消火活動のかいなく、たまたま修理のために取り外されていた1枚だけを残し、十二面の壁画はすべて焼損してしまいます。そののち、文化財を対象とする防火知識の普及・防火設備の必要性が考えられるようになったことは言うまでもありません。
 毎年の1月26日が「文化財防火デー」と定められ、文化財の脆弱さや災害対策を含めた保護のあり方に留意するようになったことも、この法隆寺金堂という大きな代償を払って得た教訓といって過言ではないでしょう。
 ところで、昨年末、私たちも、大切な文化遺産を失うという不幸な体験をいたしました。不審火から、田町(中央町一丁目)の福寿稲荷が焼失してしまったのです。
 この社を、ひたすら守り伝えてきた関係者の嘆きはいかばかりであったことか…。
 あの社を舞台に、かくれんぼをした記憶、彫刻の美しさに時を忘却した、そんな子供時分の思い出をもつ方々も少なくないでしょう。
 決して感傷的に申し上げるものではありませんが、かけがえのない地域の文化遺産を代償に、いま一度、文化財の唯一無二であることに目を向けることが求められている、そう思わずにはいられません。

古河歴史博物館学芸員 永用俊彦