江戸末を代表する蒔絵師原羊遊斎(通称久米次郎、別号更山・1770〜1845)の制作した印籠。琳派の画家、酒井抱一の作画をその下絵とすることが多い羊遊斎の蒔絵作品中にあって、この作品は、『雪華図説』をその下絵に使い、羊遊斎と古河藩との関係を示している。
鷹見泉石日記には、古河藩が羊遊斎に給与(二人扶持)を支給して多数の蒔絵作品を製作させていること、それらの品を藩が贈答品としてたくみに活用していることなどの記事が見られる。
いわば流行の最先端となった「雪の華」を、名工原羊遊斎が蒔絵に仕立てたこの印籠は、贈答された先々で大いに珍重されたようである。当時、財政難の状態にあった古河藩は、財源確保のための借金をやむなく行なっているが、その借用交渉や返礼の贈答品などにも、この印籠が利用されたことが想像される。羊遊斎の製作にかかる雪華文の蒔絵印籠は、現在、本品のほか永青文庫(旧熊本藩主細川家資料を収蔵)に架蔵されていることが知られている。
これは、土井家と姻戚関係にあった細川家への贈答品で、天保11年5月に贈られていることが泉石日記によって確認される。